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歴史映画紹介


宮廷画家ゴヤは見た(2006年)


Goya's Ghosts/アメリカ

監督:ミロス・フォアマン

<キャスト>  ロレンソ神父:ハビエル・バルデム  イネス・ビルバトゥア/アリシア:ナタリー・ポードマン  フランシスコ・デ・ゴヤ:ステラン・スカルスガルド  他

2008年劇場公開(ゴー・シネマ)



『宮廷画家ゴヤは見た』予告編



ナポレオン戦争前後のスペインを舞台にした作品。正直タイトルが気に入らなかったのであまり期待していなかったのだが、どうしてなかなか。フォアマン監督作品の名作、「アマデウス(1984年)」よりもこちらのほうが良かったかも。激動の時代を舞台に、異端審問や自由と平等を題目にした殺りくなど、西洋の負の部分を丁寧に描いた重厚な歴史作品になっている。拷問の場面なども出てくるのでそういうのが嫌いな方はおススメしないが、どっちかといえばソフトに描かれているので、興味が沸いたら見ていただきたい作品。フォアマン監督のプロフィールでは両親をアウシュヴィッツの収容所で亡くし、自身も旧共産圏の出身といった事情もあり、自由などへの思いは人一倍強いのだろう。そういった思いを作品にぶつけたのだろうなと感じられる一作。


物語の始まりは1792年。ゴヤの描いた風刺版画を見ながら、集められた教会の幹部たちはゴヤの批判を繰り返す。その中で、一人ゴヤの擁護に立ったのはロレンソ神父だった。……芸術を解する男かと思えばこの男、権威主義者で権力主義者。教会の権力の復活のために異端審問を強化すべきと主張する。さて、このロレンソ神父が肖像画を依頼していたのがゴヤだった。ゴヤは天使の絵を製作している最中だったが、モデルとしていた無垢な少女イネスが居酒屋で豚肉を嫌ったことを理由に異端審問につかまってしまう。そこで拷問を受けたイネスは嘘の告白をしてしまう。


ゴヤを通じてロレンソ神父を自宅に呼んだイネスの父トマスは、「神を信じるなら、拷問に耐える力を授けてくれるはず」というロレンソ神父の言葉に激高し、ロレンソを拷問にかけ屈辱的な書面にサインさせる。しかし、イネスの解放はかなわず、ロレンソは国外に逃亡する。それから15年……ナポレオン戦争が勃発し、停まってしまっていたゴヤ、ロレンソ、イネスの運命が再び交錯する。


邦題の通り、ゴヤはこの作品においてただ見ているだけの存在となってしまっている。極めて常識的な人間として描かれているが、偏狭な価値観の中で、自分の正義のみにしか目を向けないロレンソのイカれた信念の前に、ゴヤは無力だった。そういう意味でこの作品の主人公はロレンソ神父だった。そして、苦痛と孤独の中、ロレンソ神父の存在を心のよりどころとしていた壊れたイネスに対してもゴヤは無力だった。とはいえ、この作品の中で抜群の個性をゴヤに発揮させていたらそれこそ話が収拾できなくなってしまっただろうと思うので、この描き方で充分なのだろう。


ラストではスペインからフランスは撤退し、ロレンソはフランスの革命の主義に賛同した罪で法廷に引き出される。ここで、悔い改められることを要求される。ひょっとしたら、ロレンソはここで再び自分の信念を裏切るのではないか、壊れたイネスと狂ったロレンソのいかれた愛の物語で最後は終わるのではないか……そんな風に感じたのだが。なぜ、一度は自分の信念を裏切りながら、二度目は死に打ち勝てるほどの信念を保ちえたのかがあまり描かれていないが、“狂信”というのは恐ろしいものだと改めて感じる。それにしても、あのラストを見ると……この物語は喜劇だったように思えた。


おススメ度: 個人的評価として「アマデウス」より上と感じたからには、「アマデウス」より低いおススメ度は付けられないだろうと思うので、おススメ度はにしている。しかし、フォアマン監督はもう75歳だそうだが、偏狭になることなくこれほどバランスよくテーマを織り込んだ作品が作れるものだと思う。




【フランシスコ・デ・ゴヤ関係】