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歴史映画紹介


戦場のピアニスト(2002年)


THE PIANIST/フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス
監督:ロマン・ポランスキー

<キャスト>  ウワディスワフ・シュピルマン:エイドリアン・ブロディ  ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉:トーマス・クレッチマン  ドロタ:エミリア・フォックス 他

2003年劇場公開(アミューズピクチャーズ)



『戦場のピアニスト』予告編



ポーランド生まれのピアニスト・作曲家、ウワディスワフ・シュピルマン(1911年〜2000年)の壮絶な戦争体験を描いた作品。戦争映画の中でも秀逸な部類に入る作品だと思う。運命に翻弄される一人の男の姿を通して、戦争の悲惨さ、人間の愚かさを描いている。淡々とした話なので、退屈を感じるかもしれないが戦争というのがどれほど凄惨なものかと実感できれば、それで充分だろう。ワルシャワ蜂起後の廃墟となったワルシャワの映像は、あまりにも残酷で、しかし美しい映像だと感じた。ロマン・ボンヤスキー監督自身、戦時中家族を収容所に取られ、ユダヤ人狩りから逃れた経験を持っているそうで、その気になれば、自身の体験をもとにもっと憎しみを叩き込んだ、そういう禍々しい映画を撮ることもできたはずで、その中で、全く別人の実体験をもとに淡々とした作品を描いたのは、ただ憎しみ、怒りだけで作品を撮りたくないという意志のように感じ、個人的には好感を持っている。


この作品を、つまらないと感じるとすれば、主人公の行動の主体性のなさや行動が、時として卑怯に思えるせいだろうか。ゲットー(ユダヤ人居住区)に送られたシュピルマンは、ゲットー内のユダヤ人警察(ドイツ軍に味方したユダヤ人の自治警察組織)に入るよう勧められながらそれを断り、武装蜂起をうたいながらそのチャンスはあったのにそこからは逃れる。しかし、強制収容所に家族もろとも送られそうになった時にシュピルマンを助けたのはそのユダヤ人警察の男だった。家族の乗った列車を脇目に、一人とぼとぼとその場を後にする。助けを求めた先では、シュピルマンの名前を使って金集めをしようとした男に騙され栄養失調で死にかけることになる。隠れ家でドイツ軍のホーゼンフェルト大尉に助けられながら、彼自身は大尉を救いだすことはできなかった。


ただ、シュピルマンを非難する人は、卑怯者といえる人は、果たして自分が同じような状況下におかれたとき戦い抜くと言えるだろうか。ひょっとしたらシュピルマン自身、その時が来たら自分も戦える人間だと思っていたのではあるまいか、というふしがある。自分にはシュピルマンのことを卑怯とはとても思えない。シュピルマンが生き延びたのは偶然にすぎないが、多くのポーランド人がユダヤ人を救うために奔走したし、彼を助けた人物の多くが収容所に送られたという。ホーゼンフェルト大尉のように、ドイツ軍の中にありながらユダヤ人やポーランド国民に同情を示し救いの手を差し伸べた者もいた。映画の中で、大尉がシュピルマンにコートを手渡す場面は印象的。


2000年に刊行されたシュピルマンの手記をもとにした佐藤泰一氏訳の『戦場のピアニスト』のなかで後日談も語られている。シュピルマンは、戦後ホーゼンフェルト大尉を探し、解放のためにポーランドの最高権力者にもかけあったそうだが、結局それは実現されなかったという。大尉はスターリングラードの戦犯捕虜収容所で1952年に死亡した。


原作は日本語も翻訳されたものも刊行されている。戦後、この本がたどった運命も大変興味を引く。ポーランドは戦後共産主義国となりソ連と近い立場になった。ソ連影響下の東欧の複雑な事情により発禁に近い形で早期に絶版となったそうだ。また、当時のポーランドでは憎むべきドイツ人兵士が勇敢にポーランド国民を助けた話など受け入れられず、ホーゼンフェルト大尉をオーストリア人としなければならなかった。実のところを言うと、映画よりもこの原作本……自分が購入したのは映画の公開に合わせて刊行されたものだったが、こちらのほうが胸にくるものが強かった。是非、映画と併せて読んでいただきたい。


おススメ度: 人が、なぜこんな風に追い詰められなければならないのか。生きるか死ぬかの選択を迫らなければならないのか。しかし、それが大国の間に挟まれたポーランドという国の悲惨な歴史の中では幾度となく繰り返されてきた悲劇でもあっただろう。そんな風に思っていたら、誰もいない廃墟の場面が出てくる。それがとても美しい……。人がいないところに弾圧も、迫害もないから。おススメ度はにしている。




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