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歴史小話


サー・ガウェインの花嫁 前編



アーサー王物語は、いくつか映画化されていますが、枠のある時間の中で数多くの騎士たちを出せるわけでもなく、アーサー王やランスロットなどのごく一部しか登場することはできません。詳しい物語は良書に譲るとして、個人的に好きな物語をひとつ紹介しておきます。

サー・ガウェンはロト王とアーサー王の異父姉のモーガンとの間に生まれた騎士でした。つまりアーサー王の甥にあたります。騎士として誠実で礼節と美徳を具えた偉大な騎士として讃えられる反面、頑固で復讐心が強く、血気にはやり好色で寛容に欠けるなど、様々な面をもった人物です。アーサー王の異父姉で、たびたびアーサー王の命を狙ったモーガンの息子として登場することで彼のキャラクターは決まっていたのかもしれません。

円卓の破壊者とされたり、王国の崩壊のきっかけを作ったのはランスロットとグィネヴィアの不倫を利用して罠にかけようとしたモードレット(アーサー王と異父姉モルゴースの息子。モーガンの息子との説もある)とガウェインの実弟のアグラヴェインだったとしても、戦いそのものが長引き王国を崩壊させてしまったのは実の弟(アグラヴェインではなく)をランスロットに殺されたガウェインの復讐心が招いたといっても過言ではなかったりするあたりは、たいへん複雑な背景をもった人物であります。とはいえ、大変立派な騎士だったのは間違いなく、ガウェインがモードレットとの戦いで命を落としたことを知ったランスロットは、ガウェインの墓の前で号泣し、「ガウェイン卿は、この世に生を受けた、いとも気高き騎士であった」と讃えたと言われます。

さて、あるときガウェイン卿は、主であるアーサー王が何やら思い悩んでいるのに気付きました。ガウェインが問いただすと、アーサー王は次のような話を始めました。

それは1年前、カーライルの城で法廷を開いていた時のこと。若い婦人が進み出てまいりました。婦人は、

「私の愛する人が、黒い騎士に捕らえられてしまいました。さらに、その黒い騎士は私の父の領地をも奪ってしまったのです。どうか、私が失ったものを取り戻してください」

婦人の願いを聞き入れるべく黒い騎士の住まう城にエクスカリバーを携え向かいました。ところが、その城はイングルウッドの魔の森に立っていることを知りませんでした。黒い騎士に一騎打ちを挑んだアーサー王は、森の魔力によってたちまち力が抜けて剣を抜くこともできないまま黒い騎士に捕らえられてしまいました。

黒い騎士は笑いながら、

「このまま、お前を殺すのは容易いがそれでは面白くない。お前に1つの質問を出そう。1年後に再びこの城へ来て、その答えを言うのだ。正しい答えが出せなければ、お前は私の家来となり領地をすべて私に渡すのだ。それを約束するというのなら、放してやろう」

アーサー王は、渋々その要求を呑みました。そして、黒い騎士の出した質問、「女が最も望むものとは何か」という問いの答えを求めて旅が始まりました。

アーサー王は旅を続けました。出会う婦人、婦人に対して、この問いの答えを求めます。帰ってくる答えは様々ですがどれも正しい答えとは思えませんでした。そうこうしている間に1年が過ぎようとしていました。

アーサー王が沈んだ気持ちで森の中を馬に乗り進んでいると、ある木の根元に座っている婦人に声をかけられました。アーサー王はそちらに目をやると、うっと思わず顔をそむけました。真っ赤な服から見えるその手は木のように節くれだち、その面相はこの世のものとは思えないほど醜かったのです。無言で通り過ぎようとしたアーサー王に、女は、

「なんという人でしょう。挨拶も返さずに通り過ぎるなんて。私ならば、あなたの難問に答えてさしあげられるかもしれないのに」
「もしも、それができるのなら私はどのようなお礼もいたしましょう」

アーサー王は、婦人から答えを得て、黒い騎士の元へと向かいました。待ち受けていた黒い騎士に、アーサー王は最後の答えを取ったまま、旅の途中で得た様々な答えをぶつけますが、ことごとく外れます。黒い騎士が勝利を確信した笑みを浮かべた時、アーサーは言いました。

  されどその手を控えよ 汝誇れる騎士よ
  願わくばその手を控え
  わが王国を救わんために
  いまひとたび語らんことを許したまえ

  今朝、荒野を超えて来たりしとき
  ひとりの女の座りしいたるを見たり
  カシの木と緑なる柊の木との間にありて
  全身を真紅の衣に包みいたり

  その者の語るに 女はすべて自らの意思を持つことを欲すと
  これぞすべての女の最高の望みなり
  いざや認めよ 汝まことの騎士なれば
  われ約束をば果たしたりと

(詩の部分につきましては大久保博氏 訳の≪新訳≫アーサー王物語(角川文庫)より抜粋しています。)

黒い騎士は忌々しそうに言いました。

「おのれ。それは俺の妹だ。あの女、必ず仕返ししてやるぞ!」

かくして、アーサー王は黒い騎士を退け自分の城へと向かって馬を進めます。しかし、その足取りは重いものでした。なぜなら、アーサー王に答えを教えたあの醜い女との約束、それは、

美しく奥ゆかしい立派な騎士を彼女の夫とすること

だったからです。いったい誰が、あのような醜い女との結婚を承諾するのかと、アーサー王はさらなる難問を抱え込むことにってしまったのでした。




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