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歴史映画紹介


河井継之助〜駆け抜けた蒼龍〜(2005年)


日本

監督:松原信吾

<声の出演>   河井継之助:中村勘三郎  すが:稲森いずみ  安子:京野ことみ  稲葉隼人:伊藤英明 他

TVM


2005年に日本テレビ系列で放送された年末大型時代劇。この作品で焦点が当たっているのは幕末期の越後の小藩、長岡藩の家老として、戊辰戦争の中、幕府に対しても新政府に対しても戦争から離れた中立を貫こうとした河井継之助(1827年〜1868年)である。河井継之助の思想は、武装中立などとも言われ、現代の国家の在り方にも大きな示唆を与えている。結果論になってはしまうが、北越戦争を回避することはできず、新政府よりもすぐれた兵器(当時世界にも十数門しかなかったガドリング銃(機関銃の原型)を二門も保有していた)と高い士気の兵士たちは、一度は敵に奪われた長岡錠を奪還するという軍事的にも新政府軍と互角以上に戦った。しかし、リーダーの河井継之助の負傷により的確な行動ができなくなり、物量と兵力に勝る新政府軍の前に長岡の町は焼け落ち、戊辰戦争最大の激戦の一つだった北越戦争は幕を下ろす。


幕末の優秀なリーダーの一人として、河井継之助は非常に先見性を持った人物だった。反面、長岡を無謀な戦いに導いた張本人として、歴史家の中でも批判の対象とする者がいる。個人的には、大変に優れた人物でありながら、藩とか武士といった古いシステムにとらわれ(あるいはこだわり)結果としてこのような結果になってしまったような気がする。


ドラマの内容は、前半は若き日の継之助。明治が目の前に迫っていた時代。脅威が目前に迫る中、親戚の小林虎三郎、親友の川島億次郎、山本帯刀など、藩の優秀な人材たちとの論戦や、江戸への遊学、陽明学者で財政の達人として知られる山田方谷に学ぶために豊前松山に向かい、さらに長崎まで足をのばし松代藩の稲葉隼人や土佐の坂本竜馬他、多くの志士との議論を通じ、自身の考えを形成していく。数年後。幕府の大老、井伊直弼の暗殺。幕府の権威が失墜していく中、幕府と薩摩、長州を中心とする倒幕派との対立に巻き込まれていくのは必須の状況になっていた。


譜代大名として幕府の要職にあった長岡藩は佐幕派の会津とも深い付き合いにある。将軍、徳川慶喜は鳥羽伏見の戦いの最中、大阪城を逃げ出し、錦の御旗を掲げた討幕軍は江戸へと迫っていく。諸藩が次々ともはや新政府軍となった討幕側に寝返っていく中、河井継之助の選択は永世中立国スイスのような武装中立の姿勢を貫くことだった。むろん、討幕軍につくべきとする意見も、会津ら奥羽連合とのこれまでの交わりを忘れてはならないという意見もある。ついに奥羽征伐に乗り出す新政府軍。藩の意見に板挟みになる継之助だったが、会津と新政府軍の戦いが始まり、新政府軍の軍監、岩村精一郎と、越後小千谷の慈眼寺で会談を持つも、恭順か否かのみを問う岩村精一郎は継之助の嘆願書を受け取らず話にも耳を傾けず一方的に席を立ち、会談は物別れに終わる。それでも、戦を避けたい継之助は上田藩本陣、松代藩本陣を訪ねて新政府との交渉継続の力添えを求めるが、門前で追い返されてしまう。自分の名を呼ぶ河井継之助の声を聞きながら、稲葉隼人はただ唇をかみしめるよりなかった。そして、戦争が始まった――。


余談だが、ドラマの中で中村獅童が演じていた岩村精一郎(岩村高俊:1845年〜1906年)のイメージは司馬遼太郎原作の『峠』『歳月』によるものだろう。史実では30分程度の会談が持たれたそうだが、ドラマの中ではわずか数分のシーンで一方的に会談を蹴ってしまう姿が描かれている。後の本人の自伝でも、河井継之助の事を「これまで出会ってきた信州諸州の家老たちはいずれも平凡な人物ばかりで、河井継之助についても人物・経歴を知らず戦嫌いの保身的な門閥家老と考えた」と語り、「この会談に高圧的な態度で臨んだこと」を後に悔いている。もしも、この時、河井継之助の提案を岩村精一郎が聞き入れていたなら、あるいは、この時、河井継之助を捕えておけば北越戦争を避けられた可能性はあったのかもしれない。


岩村という人物は、この件のみならず、佐賀の乱の時の佐賀県令であったこと、さらに『峠』『歳月』で描かれたイメージもあり、少々評判の悪い人物である。しかし、会津が奥羽連合に長岡藩を引き入れるために様々な工作を行い(戦場に長岡藩のものである印の付いた武器を残すなど)新政府軍に長岡藩への不信を抱かせていた。また、もちろんこれは想像でしかないが、岩村に対し河井の側が決戦に向かわせるような言動・態度があったのではないか。岩村は自伝の中で河井の態度に不快を感じたことも記しているという。これは、ある種の劣等感だったのだろう。軍監である自分に対し、大人しく恭順さえしておけばよいものを、「会津を説得する」と自分の領分である戦略に口を出し、自分の範疇をはるかに超える国家感を持っていた河井継之助に対しての。北越戦争は避けられたかもしれない。しかし、人間の感情までコントロールすることは本当に難しい。中立を貫くということがいかに難しいことかと思わされる。


おススメ度: 前半は少々テンポが速く、登場人物も多く分かりづらいが、後半の小千谷の会談が決裂し北越戦争がはじまると俄然話は面白くなってくる。前・後編で4時間くらいにしておけばちょうどいい感じだったのではないかなと思う。おススメ度はとしている。




【河井継之助】