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歴史映画紹介


皇帝のいない八月(1978年)


日本

監督:山本薩夫

<キャスト>   藤崎顕正:渡瀬恒彦  石森宏明:山本圭  藤崎杏子:吉永小百合  利倉保久:高橋悦史  東上正:山崎努  江見為一郎:三國連太郎  大畑剛造:佐分利信 他

1978年劇場公開


まず……この映画『皇帝のいない八月』は歴史ドラマとか、歴史的事実を扱ったタイトルではない。というより、そこから最も、遠い位置にあるタイトルである。何といっても、描いているテーマは自衛隊のクーデターだ。それなのに、何でこのタイトルを入れたかというと、戦後の自衛隊をテーマにしたタイトルを一つ入れておきたかったから。自衛隊は、戦後日本の大きな矛盾を背負って生まれてきた組織である。日本国憲法は、憲法第九条において戦力の不保持と交戦権の否定を明記した。

第一項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第二項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

しかしながら、1950年に朝鮮戦争の戦況の悪化から日本占領下の米軍が朝鮮半島へと移動すると日本の防衛力・治安維持能力が希薄になることが懸念され、GHQのマッカーサー司令は日本国政府に警察予備隊の設置を指示。その後、保安隊、自衛隊へと移行し日本は再軍備の道をたどる。個人的には憲法条文を額面通りに読めば自衛隊は明らかに違憲だと思う。とはいえ、個人的には軍備自体が不要であるという立場にも立てない。どのようにして国を護るかという議論は往々にすればよいとして、自衛隊という組織、自衛官という個人は国防という国家の大事を担いながら、日蔭者のような扱いを受けてきた、戦後最大のアンチヒーローといえる。

現在日本の防衛が抱える様々な問題を指して、“普通の軍隊”になるべきという意見はあるが、世界を見回して“普通”の軍隊なるものが存在するのかどうかはなはだ疑問である。世界の歴史は戦禍と血の歴史である。政治と軍隊のあるべき関係を求め、問い、世界は試行錯誤を繰り返してきた。「兵百年養うは、一日これを用うる為なり」というのは孫子の言葉だったと思うが、国家は十年に一度あるかないかのようなクライシスに備え、考えたくないことを考えていかなければならない。日本のようにただ「駄目なものは駄目。嫌なものは嫌」では立ち行かない現実があるのではないだろうか。そして、それを学ぶのが歴史の勉強なのではないかと思っている。

この『皇帝のいない八月』の舞台は198X年の4月。時の政権は、首相の舵取りの悪さも手伝い支持率は低下、分裂の危機に瀕していた。青森で、不審なトラックを追跡中の警察車両が銃撃を受けて炎上する。現場から発見された銃弾は、自衛隊では使用していない弾丸だった。自衛隊のクーデターの疑惑、在日米軍やCIAの暗躍。鹿児島に帰省していた警務部長の江見が急きょ呼び戻される。江見は、その前に、5年前に音信不通となっていた娘の杏子の元に向かう。杏子の夫の藤崎顕正はかつてクーデター未遂事件に関わったことがあり、今回もその関与が疑われていた。突然の父親の来訪に驚いた杏子は、藤崎に会って真偽を問いただすために、寝台特急『さくら』に乗り込む。同じ日、杏子のかつての恋人で業界紙の記者の石森も『さくら』に乗り込もうとし、自衛隊関係者と思われる二人組から『さくら』の切符を譲ってほしいという恫喝に近い依頼を受ける。その態度に不審を感じ、さらに駅構内で杏子の姿を目撃した石森は、その要求をきっぱりと拒否し『さくら』に乗り込む。ところが『さくら』には藤崎顕正をリーダーとする不穏分子の一派が東京を目指して乗り込んでいた。内閣情報調査室長の利倉の指揮の元、クーデターの参加者も黒幕も割り出し、反乱は鎮圧されていく。自分たち以外のクーデター参加メンバーがすべて逮捕されたことを知っても、投降をあくまで拒否する藤崎は、東京を目指し『さくら』を暴走させる。

日本におけるクーデター事件というと戦前の2.26事件などが思い浮かぶ。戦後の日本では、幸いにも実行に移されたことはないが三無事件(さんむじけん:1963年。『皇帝のいない八月』内でも言及されていた)や自衛隊の蜂起を呼びかけた三島由紀夫事件(1970年)などが思い浮かぶ。『皇帝のいない八月』は国家のクライシスを正面から取り扱った日本映画の中でも稀有なポリティカルサスペンスだと思う。と同時に、寝台特急という設定を生かした列車ミステリーの一本でもあり、極左暴力集団の活動が活発だったころの世相とあいまって、独特の雰囲気をもった作品になっていると感じた。個人的には小林久三氏の原作はまさに傑作だったと思うが、映画版は列車が舞台ということもあってスケールも小さく感じ、少し残念だった。しかし、原作の良さと名優陣の好演に引き込まれていく。後半の銃撃戦と爆破の場面は少々貧相に感じたが、昨今のCG満載のハリウッド映画を見慣れたらそれも仕方ないか。藤崎と杏子の最期の場面は奇麗だったと思う。

おススメ度: 映画自体の出来でつけたおススメ度というより……実話ではないわけだし、歴史映画でも何でもないタイトルを無理やりこのサイトに置いているだけなので(だったら最初から用意するなよ、とは自分でも思う)、そういう時は、おススメ度はとしている。最近は、社会派エンタテイメントの良作が多く制作されている感じがあり、個人的には歓迎するべきことと思っている。



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